ラバーやレザー、特定の衣類や素材に強く惹かれる「フェチ」。日常的に聞く言葉ですが、一部の方の中には「フェチは世界的には病気とされている」と「フェチは病気なのではないか」といった誤解をしている人もいるようです。
では実際に、フェティシズムは医学的に「病気」とされているのでしょうか?本記事では、世界保健機関(WHO)が定める国際疾病分類(ICD)に基づき、フェティシズムの定義とその変遷をわかりやすく解説します。
フェティシズムは病気と呼ばれるのは誤り?でも一部は医学的対象になる場合も
まず結論から言えば、「フェティシズム=病気」という一括りの見方は誤解です。
フェチ的な性的関心は多様な人々に見られるもので、ほとんどの場合、それ自体が医学的な問題になることはありません。ただし、ごく一部のケースにおいて、日常生活に支障が出ている、あるいは他者への害が生じている場合は、精神疾患の一種とみなされることがあります。
これは、世界保健機関(WHO)が定める「国際疾病分類:ICD(International Classification of Diseases)」に基づいて判断されます。
ICDとは?世界が使う「病気の分類辞典」
ICDとは、「International Classification of Diseases(国際疾病分類)」の略で、世界保健機関(WHO)が定める、病気や健康状態を分類・整理するための国際基準のことです。
日本語では「国際疾病分類」と訳され、世界中の医療機関や研究者、行政機関などで共通の基準として使われています。
ICDは医療や保健、保険制度、精神保健の領域でも重要な役割を果たしており、例えば「ある症状が病気と診断されるかどうか」を決める際の参考基準として広く利用されます。
ICDには数年ごとに改訂版が発表されており、現在は最新版である「ICD-11」が2022年から正式運用されています。
それまで使われていた「ICD-10」も多くの国や場面で長年使われてきた信頼性の高い分類です。
日本ではまだICD-10が使われている?
実は、日本を含む一部の国では、ICD-11がまだ完全には導入されていません。
日本では現在もICD-10が医療機関や保険請求などで広く使用されており、厚生労働省を中心に段階的な移行準備が進められています。
そのため、医療現場や行政文書では引き続き「ICD-10」の分類が使用されている場面が多く見られますが、国際的にはICD-11への移行が進んでいるため、両者の違いや背景を理解することが今後ますます重要になってきます。
なぜICDで「フェティシズム」が扱われているの?
ICDでは、精神的な疾患や性的嗜好に関するものも「診断と支援のための参考資料」として収録されています。
ただし、すべてのフェティシズムが「病気」とされているわけではなく、社会生活に支障をきたすようなケースに限り、「障害」として分類される点が重要です。
WHOにおけるフェティシズムの定義(ICD-10、ICD-11)

ICD-10におけるフェティシズム(F65.0)
旧来の国際疾病分類「ICD-10」では、「F65.0 フェティシズム(Fetishism)」として明確に分類されていました。
ICD-10におけるフェティシズム等の分類
| コード | 名称 | 定義・概要 |
|---|---|---|
| F65.0 | フェティシズム | 無生物(靴、下着、素材など)に対する持続的な性的嗜好。 |
| F65.1 | フェティシズム的異性装 | 異性の服装をすることで性的興奮を得る(性的動機が前提)。 |
| F65.2 | 露出症(並列嗜好) | 他者に性器を露出することで性的満足を得ようとする。 |
| F65.3 | 覗き症(覗き嗜好) | 他人の裸や性行為を覗き見ることで性的興奮を得る。 |
| F65.4 | 小児性愛 | 13歳未満の児童に対する持続的な性的嗜好。 |
| F65.5 | サディズム・マゾヒズム | 他人に苦痛を与える・受けることで性的快感を得る。 |
| F65.8 | その他の性嗜好障害 | その他明確に分類されない性嗜好障害。 |
| F65.9 | 詳細不明の性嗜好障害 | 詳細が特定できない、または分類不能なケース。 |
この中では、例えば以下のような例が含まれます。
つまり、「特定のモノへの性的嗜好」自体が問題なのではなく、それが本人にとって深刻な困りごとになっている場合に限って診断対象となるのです。
ICD-11では、より柔軟かつ現代的な視点に
現在(2022年1月以降)、WHOは最新版「ICD-11」を正式に導入しています。
ICD-11では、性的嗜好に対する考え方がより柔軟かつ現代的にアップデートされています。
ICD-11におけるフェティシズム等の分類
| コード | 名称 | 定義・概要 |
|---|---|---|
| HA00 | パラフィリック障害 | 本人や他者に害・苦痛を与える性的嗜好の総称。 |
| HA01 | 小児性愛障害 | 13歳未満の児童に対する性的嗜好があり、行動化または本人に苦痛がある。 |
| HA02 | 露出症障害 | 他人に性器を見せたい衝動が制御できず、苦痛や問題を引き起こす。 |
| HA03 | 覗き症障害 | 他人の私的な場面を覗き見て興奮を得るが、社会的・個人的に問題がある。 |
| HA04 | サディズム・マゾヒズム障害 | 苦痛を与える・受けることによる性的行動が本人や他人に障害を引き起こす。 |
| HA05 | フェティシズム障害 | 物に対する性的嗜好が日常生活や社会機能に支障をきたす。 |
| HA06 | 異性装嗜好障害 | 異性装による性的興奮が日常生活に支障を及ぼす。 |
| HA08 | その他の特定されたパラフィリック障害 | 上記に分類されないが診断基準を満たす性的嗜好障害。 |
| HA09 | 特定不能のパラフィリック障害 | 詳細不明または分類不能なケース。 |
ICD-11では、「フェティシズム」や「サディズム」「マゾヒズム」などの性嗜好は、本人や他者に明確な苦痛・障害を引き起こさない限り、精神疾患には分類されません。
たとえば、
といったフェチ行動でも、合意のある成人間で安全に行われ、日常生活を問題なく送っている限り、病気とは見なされないという立場が明確にされています。
病気とされるのは「本人が苦しんでいる」または「他者に害が及ぶ」場合

ICDでは、このような嗜好が「パラフィリア(性嗜好障害)」というカテゴリに分類されるかどうかが、精神疾患とみなすか否かのポイントになります。
パラフィリアとは?
「社会的に受け入れられにくい対象や方法に持続的な性的関心を示し、それが本人や他者に深刻な影響を及ぼす状態」
つまり、性的嗜好そのものではなく、それによって以下のような結果が生じた場合に限って、診断対象となるということです。
フェチは「人の多様性」であり、病気ではない
「フェチは病気か?」という疑問に対して、WHOの公式な見解は「基本的には病気ではない。ただし、ごく一部に診断対象となるケースがある」というものです。
現代では、性的嗜好の多様性が社会的にも認知されつつあり、ICD-11ではその考え方が明確に反映されています。
あなた自身や身近な人が特定のフェチを持っていても、それが健全で合意のもとに楽しまれている限り、何の問題もありません。
重要なのは、誰もが安心して自分の性や嗜好を語れる社会であることです。


