- フェチ上級者
- 競泳水着の歴史について知りたい方
- 水着生地素材についてさらに知りたい方
現在ではあまり聞かれることも少なくなりましたが、往年の競泳水着ファンにとってはサメ肌の競泳水着というものは聞き覚えがあるのではないでしょうか。
詳しい人なら競泳競技において早く泳ぐために作られた技術であるとか、そういった文脈で知られています。
他方、フェティッシュな側面から見れば、競泳水着の魅力的なデザインの一つとしても知られているのではないでしょうか。
今回はこのサメ肌の競泳水着の歴史的な背景や素材の真実、どういった効果が得られたのか学術的な資料からかい摘んで解説いたします。
サメ肌の競泳水着はヒトと水泳の抵抗との戦いの中で生まれた
ヒトは本来、泳ぐことに適しているとは言えません。水中でのヒトの泳動作は、層流から乱流へと流れが遷移し、摩擦抵抗が増大する局面にあります。また、造波抵抗も最大となるため、泳ぐことは常に抵抗との戦いです。
この抵抗を克服した者が競泳で勝者となるため、少しでも抵抗を減らすために、水泳フォームの改善だけでなく、水着の開発にも力が注がれるようになりました。
生地がサメ肌タイプの競泳水着を含め、いわゆる「高速水着」と呼ばれるものが開発されることになります。
競泳水着の進化は覆う面積を減らすところから始まった
競泳水着の開発は、選手が水中での抵抗を最小限に抑え、パフォーマンスを最大化するための技術革新の連続です。
1980年代には、水着の素材やデザインに重点を置き、水をはじきやすく、薄く軽量で、身体に密着する水着が求められていました。
また、水着のカットを大胆にし、覆う面積を減らすことで、体内に入り込む水の排出を促進する工夫がされてきました。
境界層制御理論の導入と新しい素材の開発
1992年のバルセロナ五輪以降、競泳水着の開発には新たなアプローチが採用されました。従来は滑らかで撥水性が高い水着が理想とされていましたが、境界層制御理論が応用されることで、異なるコンセプトが登場しました。
三重大学工学部とミズノの共同研究により開発された「リーオスペック」という新素材がその代表例です。
この素材は、ポリエステル繊維を熱プレスで平滑化し、さらに撥水剤を縞模様にプリントすることで、水の流れに速度差を生じさせる構造を持っています。これにより、水着表面の抵抗が減少し、従来の製品に比べて最大8%の抵抗減少効果が得られました。
鮫肌模倣技術の導入
2000年のシドニーオリンピックでは、水着の開発がさらなる進化を遂げました。特に、ミズノと東レが共同で開発した新素材は、鮫の皮膚のV字型の微細な溝を模倣し、鱗状の撥水処理を施したものでした。この鮫肌模倣技術は、NASAの研究によってリブレット効果として知られており、航空機やヨットなどでも応用されています。
サメ肌とリブレット効果
サメの皮膚には、微小なV字型の溝が並んでいます。この溝構造が、サメが泳ぐ際の流体抵抗を減少させる役割を果たしています。サメが水中を高速で泳ぐとき、このリブレットが水流の乱れを制御し、皮膚表面に沿った流れの抵抗を減少させます。
この技術の導入には、4年以上の歳月と多額の経費が費やされました。
リブレット効果とは表面の微細な溝構造によって流体抵抗を低減させる技術のことです。
この効果は、サメの皮膚にある「リブレット」と呼ばれる細かい溝構造を模倣したもので、水や空気といった流体の流れに対する抵抗を減らすことができます。
デザイン面では、イギリスのSPEEDOが全身を覆うフルボディースーツを開発し、選手の動きを妨げることなく、体全体をカバーするデザインを実現しました。これにより、競泳水着は単なる衣服から、1/100秒を争う競技において重要な戦略的アイテムへと進化を遂げました。
高速水着の効果検証
このように進化した高速水着が、実際にスイマーのパフォーマンスをどの程度向上させるかについては、いくつかの実験が行われました。西オーストラリア大学のBenjanuvatraらによる実験では、新水着が平均7.7%の抵抗削減効果を示しましたが、これはけのび姿勢での静的な抵抗の測定に限られています。
またオランダ自由大学のToussaintらによる実験では、自己推進中の抵抗を測定する装置を用いて、13名のスイマーを対象に従来の水着と新水着を比較しましたが、全体として有意な差は見られませんでした。
ただし、一部の被験者では新水着による抵抗削減効果が認められました。
双方の実験結果からはなんともいい難い結果と言えます。
サメ肌の競泳水着は水着の進化の過程で生まれた
このようにサメ肌の競泳水着は水着の進化の過程で生まれたものであるということができます。
実際の効果の程は着用者自身しかわかりにくいところもあり、科学的なアプローチによる検証もありましたが、是非が分かれるところもあるようです。
とはいえ、競泳水着ファンにとってこのデザインは惹きつけられるものがあると感じる人も少なくないはずです。
現在ではこの手の水着が開発されていることはほとんどないようですが、また新たにこういったデザインのものが出てくるのか注目したいところです。