競泳水着ファンの中では知らない人はいないのではないかと思われるほどの名器「ALS403」。
ハイドロSPという生地が採用されていることは多くの方が知るところで、特に様々なカラーリングで販売されていたものの中でも「ガンメタ」は比類なき人気を博しました。
そんな有名なALS403ですが、sukumizu.tvで観測できている限りでは2002年に販売されていた形跡があるだけで、それ以外のデータはあまり見当たらない、というのが実情です。
それもそのはず発売当初から20年以上も経過しているため、インターネット黎明期であったことを考えれば、なかなか残っているデータも少ないかもしれません。
そのため今回はできる限りこの水着のアーカイブを遺したいという思いから、ALS403に関するデータを様々な観点で記録、解説いたします。
ALS403に関するデータ
まずはALS403に関するデータについて紹介します。
こちらはネット上に残っていたasicsのカタログデータを引用し、紹介しています。
- モデル
- ALS403
- タイプ
- 競技用競泳水着
- ブランド
- asics
- 製造
- asics
- 素材
- ハイドロSP(ポリエステル70%・ポリウレタン30%)
- 発売日
- 2002年12月上旬頃
- カット形状
- スパイラルカット(ハイレグタイプ)
- バック
- オープンバックタイプ
- 形状特徴
- スパイラルカットⅡ
- サイズ(JASPO規格サイズ)
- 3SS、SS、S、M、L、O
- 身長: 3SS:143-149 SS:147-153 S:151-157 M:155-161 L:159-165 O:163-169
- 胸囲: 3SS:72-76 SS:75-79 S:78-82 M:81-85 L:84-88 O:87-91
- ウエスト: 3SS:53-57 SS:56-60 S:59-63 M:62-66 L:65-69 O:68-72
- ヒップ: 3SS:80-84 SS:83-87 S:86-90 M:89-93 L:92-96 O:95-99
- カラー(カッコ内は色番号。XXは不明)
- (XX)Nレッド
- (XX)ブルー
- (55)Sネイビー
- (63)Bパープル
- (86?)Dグリーン
- (90)ブラック
- (91)ガンメタ
- メーカー希望小売価格
- 7,600円
asics ALS403の概要について
asics ALS403は2000年代初頭、当メディア調べでは2002年に登場した競泳用水着で、競技者向けに特化したデザインと機能を備えていました。
この水着は、特にトップアスリートや競技志向のスイマーに向けて開発され、その高性能と耐久性から、多くの競泳選手に支持されてきました。
その証左として、製品カタログでは当時、女子競泳の選手だった萩原智子(はぎわら・ともこ)選手がALS403のガンメタモデルを着用した写真が掲載されていました。
ALS403の主な特徴は3つ挙げるとすると、以下の要素が挙げられます。
- 低抵抗性:水中での抵抗を最小限に抑える設計が施されている。
- 高いフィット感:ボディに密着するように設計され、選手の動きを制限せずにサポート。
- 耐久性:高密度な素材を使用し、競技環境での長期間の使用に耐える耐久性を得た。
これらの特徴は、競泳用水着としての基本的な要件を満たしつつ、さらなるパフォーマンス向上を目指した設計であることがわかります。
ハイドロSP生地の詳細
ALS403を語るうえで外せないのがハイドロSPについてです。
ALS403に採用されたハイドロSP生地は、この水着のパフォーマンスを支える鍵となる要素でした。
ハイドロSPは、競泳水着において革新的な素材として開発され、水中での低抵抗性と高いフィット感を提供することを目的としていました。
ハイドロSP生地の主な特徴を挙げるとすると、以下の要素が挙げられます。
- 低抵抗性:ハイドロSPは、非常に滑らかな表面を持ち、水中での抵抗を極限まで減少させることが可能。これにより選手は水の中でより速く、よりスムーズに進むことができるようになった。
- 高いフィット感:ハイドロSPは伸縮性があり、選手の体に密着する。そのため体の動きに合わせて柔軟にフィットし、余分な生地による抵抗が発生しないようになった。
- 速乾性:競技後のリカバリーをサポートするために、速乾性が高く、選手に快適な着用感を提供できる。
- 耐久性:高密度なナイロンやスパンデックスなどの素材を使用し、過酷な競技環境にも耐えるよう設計された。
ハイドロSPに関する関連記事
特筆すべきはハイドロSPは生地表面を可能な限り平面化し、水流の抵抗を抑えようとしたところ、それに対して生地表面を鮫肌上にすることで同様に水の抵抗を下げるようとした水着も存在したことです。
メーカーの考え方の違いが垣間見える部分でもありますが、面白い考察ができる部分にも思えます。
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いずれにしてもハイドロSP生地は、競泳用水着の進化において重要な一歩を示すものでした。
この素材の導入により、競泳水着はより高度な技術が求められるようになり、その後の水着開発に大きな影響を与えました。
スパイラルカットⅡの詳細
ALS403ではハイドロSPの他にスパイラルカットⅡというカッティングが採用されています。
これは大まかに言ってしまえば股ぐりのデザインになりますが、この点においても当時の技術の粋が詰め込まれています。
具体的にスパイラルカットⅡは、asicsの競泳水着ALS403の股部分に施されていた特殊なカットのことで、従来のスパイラルカットをさらに進化させたものです。
従来のスパイラルカットとの違いは、カットの深さや角度が調整することで、筋肉の動きに合わせて、より自然な立体的な構造にするため、カットの深さや角度が最適化されました。
またハイドロSP素材との組み合わせにより、伸縮性と耐久性を両立し、より快適な着用感を実現しました。
このスパイラルカットⅡを採用したことで得られたメリットを簡単にまとめると下記のような特徴になります。
- 身体への負担軽減:股部分の圧迫感を軽減し、長時間の練習でも快適に泳ぐことが可能に。
- 可動域の拡大:股関節の可動域を広げ、よりスムーズなキック動作をサポートする。
- 筋肉のサポート:筋肉の動きに沿った立体的な構造により、筋肉をサポートし、パフォーマンス向上に貢献できる。
メリットから考えれば、スパイラルカットⅡが採用された理由は、長時間の練習や競技においてスイマーの快適性を高め、身体への負担を軽減、可動域を広げることで、より高いパフォーマンスを発揮できるように設計されたから、ということができます。
競泳水着の進化におけるALS403の役割
このALS403登場後も開発メーカーであるasicsはもちろんのこと、他社メーカーが製造販売する競泳水着もさらに進化の歩みを進めることとなります。
ALS403が登場した2002年は高速水着全盛と言ってもいい時代でarenaではX-FLATが販売されていた時代です。
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そういった時代背景を考えれば、少なくともFINAによる高速水着規制が始まった2009年まではこのALS403が競泳水着の進化を担ったものの一つであると言うことができるかもしれません。
どのようなポイントが競泳水着のさらなる進化を進めたのか、下記がその事例に当たると考えられます。
高度な素材技術の導入
ALS403で採用されたハイドロSP生地は、競泳用水着における素材技術の重要性を示しました。水中での抵抗を極限まで減少させる素材の開発は、選手のパフォーマンスを向上させるために不可欠であり、その後の競泳水着の開発においてもこの理念が継承されました。
フィット感と動きの効率化
ALS403は、選手の体に密着し、動きを最大限にサポートするデザインが特徴的でした。このフィット感を追求した設計は、競泳水着の進化において基本的な要素となり、後の水着ではさらに効率的な動きを可能にするためのデザインが追求されました。たとえば、筋肉をサポートするコンプレッション機能や、特定の筋肉群を強調するデザインがその一例です。
競技者志向の水着開発
ALS403は、特に競技者向けに設計された水着であり、トップアスリートのニーズに応えるための技術が投入されました。この競技者志向の開発姿勢は、他のメーカーにも影響を与え、競泳用水着の進化において競技パフォーマンスを最大化するための技術開発が加速されました。
デザインと規制の影響
ALS403のような水着は、その技術革新によって選手のパフォーマンスを大幅に向上させましたが、同時に競泳界での規制を見直すきっかけにもなりました。水着の技術が進化することで、選手間の公平性が議論されるようになり、後にFédération Internationale de Natation (FINA) は水着の素材やデザインに関する規制を強化しました。このように、ALS403は技術革新がスポーツ規制に与える影響を示す一例ともなりました。
ALS403が示した未来への道
ALS403は、競泳水着の進化における重要なマイルストーンであり、その影響は今なお続いています。この水着が示した素材技術の重要性、フィット感を追求したデザイン、そして競技者志向の開発姿勢は、後の水着開発においても継承され、さらなる革新が続いています。
競泳水着は、選手のパフォーマンスを最大化するための重要な要素であり、その進化は競技そのものの進化にも直結します。ALS403は、その進化を牽引した水着の一つであり、競泳用水着の歴史において欠かせない存在となっています。
今後も競泳用水着の技術は進化し続けるでしょうが、その基礎を築いたALS403の存在は、今後も長く語り継がれることでしょう。競泳水着の歴史と未来を見据える上で、ALS403が果たした役割を再認識することは非常に重要です。
余談:なぜガンメタが人気を博したのか
そういえば、特に競泳水着マニアの間でなぜガンメタの競泳水着の人気が出たのでしょうか。
実は2000年代中盤~2010年代には言われていた「ガンメタ競泳水着」といえば、ほとんどの場合、このALS403のガンメタカラーのことを指していました。
いわゆる「ガンメタ競泳水着」の元祖と言っていい存在です。
その人気が出た理由について考察したところ、下記がその理由に当たるのではないかと考えられます。
- ガンメタリックという黒や他の色では出せないフェティッシュな光沢感があった
- 黒では強すぎるコントラストを生んでいたが、ガンメタは日本人の肌の色と絶妙にマッチした
- 競泳、萩原智子選手がカタログでガンメタカラーを着用していて、購入する人が多かったから
おそらくこれらの理由が複合的に絡んだことによるものだと考えられます。
特に日本人の肌にマッチした、という点では、ALS403登場以前にガンメタリック一色の水着はあまりなかったのではないかと考えられ、とても新鮮に感じられたこともあるかもしれません。
次世代のモデルへつながる重要な役割を果たした水着の一つ
ASICS ALS403は、競泳水着の進化において重要な役割を果たした水着です。ハイドロSP生地の導入、高いフィット感を追求したデザイン、そして競技者志向の開発姿勢は、後の水着開発に大きな影響を与えました。この水着がもたらした革新は、競泳用水着の未来を切り開き、今後もその影響は続くでしょう。競泳水着の進化において、ALS403が果たした役割を理解することで、次世代の水着がどのように進化していくのかをより深く理解することができます。