競泳用水着の進化を語る上で、Speedoが手がけた「S-2000」は欠かすことのできない存在です。
今日のハイテク水着の系譜——アクアブレード、ファーストスキン、LZR Racerといった革新的モデルは、すべてS-2000から始まったといっても過言ではありません。
同時にS-2000は、その大胆なハイレグカットや独特の光沢生地によって、競技用としてだけでなくフェティッシュな観点からも強い関心を集めてきた水着です。
シンプルで機能的でありながら、身体のラインを際立たせるデザインは、スポーツウェアとしての役割を超え、コレクションや鑑賞の対象としても語られています。
S-2000とは?シリーズ名としての役割
S-2000は1980年代末から1990年代初頭にかけて登場したSpeedoの競泳用シリーズです。
手元にあったS-2000の中で83OF-10827というモデルの製品の箱には以下のように表記されていました。

この表記から分かるように、S-2000は単独のモデル名ではなく、シリーズ/スタイル名として用いられていたことが伺えます。
そして、その下に個別の品番(ART NO.)が存在し、さらに「アクアブレード」や「アクアブレード II」といった生地名称が組み合わされる仕組みとなっていました。
競泳競技としてのS-2000
競泳用のS-2000は、ハイレグカットや背中のジッパー構造などを備え、スプリントから中距離種目に対応する設計となっていました。
当時の代表選手たちが国際大会で着用したこともあり、「ハイテク水着時代の幕開け」を象徴する存在となりました。
水球競技としてのS-2000
S-2000は競泳用だけでなく、水球競技向けモデルとしても使われていました。
水球用のモデルは、競泳タイプに比べて以下の点が異なっていました。
当時の水球チームユニフォームとしてS-2000シリーズが導入されていた事例もあり、「水球用Speedo S-2000」とカタログや流通現物で確認されています。
このことから、S-2000は「競泳水着の進化を象徴するモデル」であると同時に、「水球競技にも対応したマルチユースなシリーズ」であったことが分かります。
S-2000の代表的なモデル(ART NO.一覧)

シリーズ(STYLE) | ART NO. | 生地(Fabric) | 特徴・備考 |
---|---|---|---|
S-2000 | 83OF-10827 | アクアブレード II | ロイヤルブルー/ハイカット。箱付き現存例多数。 |
83OF-10809 | アクアブレード II | ブラック/ハイカット。FINAマークなし時代。 | |
83OF-9888 | アクアブレード II | ピンク系/背中ジッパー仕様。特注カラー流通例あり。 | |
83OF-80213 | 不明(アクアブレード系の可能性) | カタログや現物資料の確認が必要。 | |
83OF-002 | 不明 | 型番は確認されているが仕様未詳。 |
S-2000が採用した生地「アクアブレード」シリーズ
S-2000は単に形状やカラーの違いだけでなく、生地技術の進化とも密接に結びついていました。
S-2000シリーズは、この「アクアブレード」系生地と組み合わさることで、水着のプラットフォーム的な役割を果たしていました。
S-2000から始まる競泳水着の系譜
SpeedoのS-2000シリーズは、近代競泳水着の進化を語るうえで外すことのできない出発点といえます。
従来のナイロンやポリウレタン主体の布帛水着から一歩踏み出し、「低抵抗」「高機能」を掲げた新素材アクアブレードを採用したことで、競泳水着は単なる練習用・大会用の道具から、明確に記録更新を狙う「ハイテク機材」へと進化しました。
その後、アクアブレードII、そしてより洗練されたアクアRacerやFastskinシリーズへと系譜は連なり、オリンピックや世界大会で数々の記録を生み出していきます。
つまりS-2000は、Speedoが「競泳水着の科学化」を本格的にスタートさせた最初のシリーズであり、以降の開発を方向づけた歴史的存在なのです。
S-2000(1980s末〜90s初)
│
└── AQUABLADE(1992〜)
│
└── AQUABLADE II(1996〜)
│
└── FASTSKIN(2000〜)
│
└── LZR Racer(2008)
年代 | シリーズ | 技術的特徴 |
---|---|---|
1980年代末〜90年代初 | S-2000 | ナイロン×ライクラ高密度繊維+コーティング。ハイレグや背中ファスナー型も存在。 |
1992(バルセロナ五輪) | AQUABLADE | 縦縞リブ加工で摩擦抵抗を軽減。世界的に普及。 |
1996(アトランタ五輪) | AQUABLADE II | 伸縮性・耐久性を改良。多くの代表選手が着用。 |
2000(シドニー五輪) | FASTSKIN | サメ肌模倣の立体構造。全身スーツ型で話題に。 |
2008(北京五輪) | LZR Racer | ポリウレタン素材を多用。浮力と圧縮効果で世界記録を大量更新。後に規制対象。 |
コレクター観点から廃盤後も続く人気と価格動向
S-2000は既に廃盤ですが、国内フリマ/オークション市場では“未使用・箱付き”、“水球型”、“バックジッパー”、“旧ロゴ”など条件によって高値が付く例が見られます。
2025年で落札データを確認してみても、数万円台から数十万円規模まで分布し、状態・サイズ・希少仕様で価格が大きく振れます。
実勢は日々変動するものの、初期テック・スーツの象徴としてコレクション価値が維持されていることは確かです。
フィットと着用感:当時の“締め付け設計”をどう読むか
着用派の方にとって気になるのは、S-2000着用時の着圧や着心地についてではないでしょうか。
S-2000は“密着してこそ性能を発揮する”設計思想で、適正サイズを選ぶと着圧は現行品以上に強く感じられることが多い個体です。
しかしながら先述の通り、S-2000シリーズはすでに廃盤となっており、どんなに新しいモデルだったとしても販売終了から少なくとも10年以上は経っています。
そのためたとえオークションで新品を手に入れたとしても経年変化(弾性低下・コーティング硬化)があり得る点に注意が必要です。
コレクションとして保管する場合は、暗所・低湿・低温での保管と、伸ばしっぱなしを避ける平置き保存が無難でしょう(一般的な合成繊維保管知見に基づく注意点)。
意匠と“フェティッシュ”な魅力
S-2000の魅力は、競技性能だけではありません。
光沢を帯びた平滑な表面、身体の起伏を滑らかに一枚で包むタイトフィット、バックジッパー型の直線的な切替など、視覚的な“スピード感”を強く訴える意匠は、現在の目で見ても独特です。
コーティング生地特有の艶や、当時の大胆なハイレグカットは、コレクターやビジュアル志向のファンにとっても評価の的になっています。
Speedo S-2000モデル着用画像一覧






S-2000に関するFAQ
新品参考価格は8,489円とされていますが、状態や希少性により数万円〜10万円以上の価格差もあります。
スイムスワムによると、バルセロナ五輪では約53%のメダルが同一モデル(Speedo S-2000)を着用して獲られたと報じられています。
はい、S-2000Mという水球(水球用)モデルも存在します。バックジップ型で、耐久性に配慮された設計のものが流通しており、実物や買取記録にも確認されています。
A: フリマ出品の記載によると、ネイビーのハイレグモデルは「背面にジップがあり、密着感が強い。生地は光沢がありスベスベしている」といった評価があります。
オークファンでは「新品未使用の特注品・超ハイレグ・バックジップ仕様」など、希少条件のモデルが数十万円で落札されている記録もあります。
S-2000は「近代競泳水着のスタートライン」かつ「フェティッシュアイコン」
S-2000は、Speedoが従来の布帛水着から「低抵抗・高機能素材」へと移行する転換点となったシリーズです。
シリーズ名(STYLE)として複数の品番を包含し、生地ブランド(アクアブレード系)と組み合わさることで、後の革新的水着へと発展していきました。
そしてもう一つの側面として、S-2000は90年代特有のハイレグカットと光沢感によって、スポーツの枠を超えたフェティッシュな象徴にもなりました。競技力を支える合理的デザインが、そのまま身体美を強調する要素となり、コレクション性・鑑賞性を兼ね備える存在へと昇華したのです。
つまりS-2000は、近代競泳水着史における「スタートライン」であると同時に、ファッション的・フェティッシュ的な意味合いでも大きな影響を残した水着といえます。
参考・出典
The Guardian「Racerback to Fastskin: Swimsuits that rocked the swimming pool」(S2000の1992年デビューと15%抵抗低減、バルセロナでのメダル記述)。
The Guardian
Schwimmschule Steiner「The competitive swimsuit and its evolution」(S2000の概要、ライクラの表面処理に触れる説明)。
Schwimmschule Steiner
Speedo(日本)公式ヒストリー(S-2000→AQUABLADE®(S-2000比8%改善)→FASTSKIN®の系譜)。
Speedo - スピードブランドサイト
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